ようこそ問責者

僕は間違った恐怖を自分で作り出し、
増幅させ、それに耐えるのに忙しく、
自分を見つめる余裕を完全に失っていた。


与えたり、受けた心の傷や痛みは
重い程、ゆっくり時間を掛け沈降し深淵に居座る。
それが
少しくらい殴られても倒れなくなったり、
身体を預けられても支える事ができたり
バランスを取れる重石になっていくのだと思う。


“2”を読み終わった時に
そんな深い所に溜まったものが、
一気にサルベージされてしまい
グチャグチャにかき回されて透度の高い上澄みの部分さえ
ドロ沼に変わってしまった。
お前はこんな事を言った
お前はこんな事を言われた
お前はこんなことをした
忘れていたことを次から次へと思い出し
朝方まで眠ることが出来なかった。
そんなドロ沼でも船は揺れながら進むのだろうか。
とてもじゃないが続けて”3”を読む事が出来ず
こういう本こそが苦手なんだと改めて思った。
今だからこそ苦しみながら読めたのだろう。
船に乗れ!〈1〉合奏と協奏船に乗れ!(2) 独奏船に乗れ! (3)


どんな哲学者の言葉よりも、じーさんの言葉が一番沁みた。

芸術は芸術家が気ままに作ったもんなんかじゃないんだ。
家賃のために、お上の機嫌をそこねないために、
次の仕事に困らないように、せっぱつまって作られたんだ。
しかもそんな苦労は、ほら、
この音楽からはこれっぽっちも聴こえてきやしねえ。
女にふられてくやしいとか、俺のことを認めろとか、
てめえの気分を宣伝するために芸術を利用してねえんだ。