圧巻

これは長二が他の職人の仕事を指図するに、
何でも不器用に造るが宜い、見かけが器用に出来た物に永持をする物はない、
永持をしない物は道具にならないから、
表面は不細工に見えても、十百年の後までも毀れないように
拵えなけりゃ本当の職人ではない、
早く造りあげて早く銭を取りたいと思うような卑しい了簡ではない、
画でも彫刻でも芸人でも同じ事で、
銭を取りたいという野卑な根性や、他にほめられたいということがあっては美しい事は
出来ないから、
そんな了簡を打棄って魂を籠めて不器用に拵えてみろ、
きっと美しい物が出来上がるから、
不器用にやんなさいと毎度申しますので、遂に
不器用長二と綽名されるようになったのだと申すことで。
                      指物師名人長二より

三遊亭円朝探偵小説選 (論創ミステリ叢書)